2022.01.27

研究レポート①-9:小金井市立小金井第二小学校

 東京都小金井市ではGIGAスクール構想の実現に向け、2020年から市内公立小・中学校に「Chromebook™」を配備し、「児童・生徒1人1台端末」の環境を実現しています。それに伴い、NTTコミュニケーションズが提供する教育ICT環境「まなびポケット」を使ったGIGAスクール構想の実証をスタートさせました。ここでは、本実証のレポートとして、市内各校の取り組みを紹介していきます。

小金井市立小金井第二小学校
次世代教育推進委員
ICTリーダー
第5学年 担任
江口 和宏 主任教諭

小金井市立小金井第二小学校
ICTサポーター
第3学年  担任
酒井 光教諭

【1】研究・研修テーマについて

〜 まなびポケットを活用した授業改善の推進 〜

 小金井第二小学校では、2021年度から「『まなびポケット』を活用した授業改善の推進」を研究・研修テーマにしたChromebook活用を本格的に始動させています。「まなびポケット」については2020年度から「スクールタクト」を中心に利用を始めており、2021年度では、その経験を土台にしながら、授業の改善に取り組もうとしています。

 このテーマ設定について同校のICTリーダー、江口 和宏 主任教諭は以下のように説明します。

 「『まなびポケット』のさまざまなコンテンツ(アプリケーション)を試しながら、先生たちの間で他校の活用事例を含めた情報の共有をより積極的に図ることで、単に『まなびポケットを授業で使ってみる』という段階から『まなびポケットを使って授業を改善する』という段階へと活用のレベルを引き上げようと考えました。その目標に向けて、数ある事例の中から授業の改善に効果的と思われるものを選り抜き、学校全体に取り入れる試みに力を注いでいます」

 年間のスケジュールとしては、ICTリーダーとサポーターが定期的に行う「まなびポケット」の講習会のほか2021年5月、10月、12月に「まなびポケット」を活用した研究授業をそれぞれ実施するという計画を進めています。また、2021年6月にはNTTコミュニケーションズによるオンラインでの「まなびポケット活用研修会」も実施しています。

 「2021年度の初めごろに『まなびポケット』のコンテンツの多くがリニューアルされたので、1学期は各コンテンツの特徴や各教科での効果的な活用法を模索する段階にあったと言えます。そのため、ICTリーダーやサポーターが中心となって、さまざまなコンテンツを積極的に授業で使用し、その効果的な活用法を確認していきました」(江口教諭)

【2】2学期からはコンテンツの活用を全校レベルに拡大

 上述したICTリーダー/サポーターによる実践結果をベースに、2学期からはコンテンツの有効活用を全校レベルに広げる活動を始めました。具体的には、全教員を対象にコンテンツの使い方を紹介する研修会を行ったり、おすすめの活用法を提案したりしたと、江口教諭は振り返ります。

 「例えば、2学期初日の研修会では、スクールタクトの活用法など、校内で比較的利用が進んでいるコンテンツの使い方を先生たちに伝え、活用の一層の定着を図りました。実際、研修において社会科の教材づくりにスクールタクトのテンプレートを使うことを提案したところ、5年生の全てのクラスでテンプレートを使った社会科の授業が行われるようになりました。今では国語や道徳でもスクールタクトのテンプレートが使われています」(江口教諭)

資料① 2学期初日の研修会

資料② 社会科テンプレート

 また、ICTサポーターが中心となって「まなびポケット」のドリル教材に関する詳しい解説資料を作成し、それを教員間で回覧して、活用方法を周知しました。解説資料を作成した酒井 光 教諭は、当時のことを以下のように振り返ります。

資料③ ドリル教材に関する解説資料

 「『まなびポケット』の中から、授業でドリル教材として利用できるアプリ、プログラミングやタイピングアプリなどをピックアップしました。アプリの説明や使い方、コメントをできるだけ詳しく説明し、これまで使ったことがない先生にも活用してもらうことを目指しました」

 10月の研究授業では、校内研究テーマである「体育でのICT活用」を実践し、「まなびポケット」(スクールタクト)を授業の進め方の共有と振り返りに活用しました。振り返りの内容はクラスごとに掲示物としてまとめており、教室の廊下側に掲示したり、他のクラスや学年に成果を伝えたりしています。

資料④ 体育の授業場面(スクールタクト)

資料⑤ 体育校内研究の廊下掲示

 12月の研究授業では、東京学芸大学の先生を講師に迎え、「体育でのICT活用」を引き続き検証しました。研究授業は全教員が参観し、体育における「まなびポケット」(スクールタクト)の活用法について情報を共有しています。

【3】Chromebookによるオンライン学習の実践で「ハイブリッド型」の有効性を確認

 同校ではChromebookの持ち帰り学習も実践しています。

 「2021年10月の学校行事の予定が変更になった際、午前中に通常授業を行ったのち、児童たちにChromebookを自宅に持ち帰ってもらい、Web会議ツールの『Google Meet』とスクールタクトを使った同時双方向型学習とオンデマンド型自宅学習を試行しました。目的は、オンラインで児童と先生が双方向で対話できるか、児童がスクールタクトの課題をオンデマンド(児童が任意の時間に課題を開くこと)でこなせるかを確認することです」(酒井教諭)

資料⑥ オンライン学習に向けた研修会

資料⑦ オンライン学習当日の様子

 この試みは、2021年6月から7月にかけてChromebookを持ち帰り、「まなびポケット」のオンデマンド型学習を施行したことと、9月にWeb会議ツールの使い方や出欠の確認方法など、同時双方型学習に必要なChromebookの操作方法を児童たちに学校で指導していたこともあり、特に大きなトラブルもなく実施できたといいます。一方で、Web会議ツールを使い、長時間にわたってリアルタイムのオンライン学習を行うのは児童たちの集中力が続かないことも確認できたといいます。この結果から、Chromebookの持ち帰り学習には、Web会議ツールを使った同時双方向型学習と、スクールタクトで作成した課題やドリル教材を使ったオンデマンド学習の“ハイブリッド型”が適していることが明らかになったと江口教諭は振り返っています。

 同校ではまた、ICT活用に対するより多くの教員の協力を得やすくする目的で、Chromebookの活用アイデアを全教員から恒常的に募っています。ICT機器を活用した各学年の授業実践は26件になり、校内の専用掲示板で共有するとともに、同校HPにも掲載し、地域に情報発信を行い、もしもの時のオンライン学習に備えています。併せて、学校内外の識者からのアドバイスも積極的に取り入れており、上述したオンライン学習を試行する際には、前任校でICT関連の校内研究を行っていた教員から、先行事例を共有してもらったとのことです。

【4】“創造的な学び”の実現に向けてこれからもICT活用の定着を推し進める

 ここまでの取り組みで課題に感じたことは「授業で『まなびポケット』を使うメリット」を全教員に実感してもらうことだと、江口教諭と酒井教諭は口を揃えます。この課題を解決するための術(すべ)について、江口教諭は次のように説明します。

 「同じスクールタクトのテンプレートを使っていても、クラスによって活用の実態に差が生まれやすいのが実情です。ICTを活用した学習の効果をより高めるために、どの学年で何のコンテンツを使うかをプログラミング教材なども含めて整理していく必要があります。アクセスログを見る限り、当校における『まなびポケット』の活用率はアップしていますが、先生や児童にとって本当に大切なのはICTを使うことではなく、ICTで学びを高度化することだと思います。大切なことは、ICTに偏らず、紙やノートの上で手を動かして学習を進めることとのバランスを取ることです。今後もICTをどこでどう使うのが最も有効かをしっかりと見定めていきたいと考えます」

 また、そのほかの課題として酒井教諭は「情報モラル教育についても校内でしっかりと指導しなければならないと感じています」と指摘します。

 両教諭によれば、Chromebookや「まなびポケット」の活用には上記のような課題はある一方で、活用によって児童による学習のしかたに大きな変化、あるいは進歩があることも強く実感しているといいます。ゆえに全校レベルでのICT活用の定着には継続して取り組む構えです。

 「授業でのICT活用を洗練させながら、当校の全クラスで『まなびポケット』のコンテンツが日常的に使われるようになることを目指しています。こうしてICT活用を定着させていけば、小金井市教育委員会が掲げている『小金井市GIGAスクール構想における到達目標』にある第5段階の学習活動『創造的な学び』に近づけると期待しています。ICTの有効活用を通じて各教科の学びを相互につなげながら、社会課題を自ら発見して解決する力、あるいは、1人1人の自己実現に必要な力を育めるようになることを願っています」(江口教諭)