2022.01.25
研究レポート①-8:小金井市立本町小学校
東京都小金井市ではGIGAスクール構想の実現に向け、2020年から市内公立小・中学校に「Chromebook™」を配備し、「児童・生徒1人1台端末」の環境を実現しています。それに伴い、NTTコミュニケーションズが提供する教育ICT環境「まなびポケット」を使ったGIGAスクール構想の実証をスタートさせました。ここでは、本実証のレポートとして、市内各校の取り組みを紹介していきます。
小金井市立本町小学校
次世代教育推進委員
ICTリーダー(日常活用推進)
ICTサポーター(第1学年)
第1学年学級担任・主任教諭
山口 泰代 教諭
小金井市立本町小学校
第6学年学級担任・主任教諭
西内 牧子 教諭
【1】研究・研修テーマについて
~まなびポケットを使って対話的な学習の充実を図る~
本町小学校は、2018〜2019年度に東京都のプログラミング教育推進校に指定された学校です。学習指導要領によるプログラミングの必修化に先駆けてプログラミング教育を展開し、その過程で「スクールタクト」の利用も開始していました。2021年度からは「まなびポケット」を活用して「対話的な学びの充実を図る」という取り組みを研究・研修テーマとして掲げ、スクールタクトを中心に授業での実践的なICT活用を推し進めています。
同校が充実を目指す「対話的な学び」について、次世代教育推進委員の山口 泰代 主任教諭は次のように説明します。
「私たちが目指しているのは、スクールタクトなどを使い短時間で友達の意見を確認して、自分の考えを深めることです。児童同士が互いの意見を融合し、グループ内における共通点と相違点を効率的にまとめる作業を学習の中心に置いています」
また、このテーマを設定した理由について山口教諭は以下のように明かします。
「新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)が流行して以降、児童がクラスの全員に向けて口頭で意見を発表したり、児童同士が対話で交流したりするのが難しくなりました。そのためコミュニケーション不足をスクールタクトの活用を通じて補ってきたのですが、結果的に人前で発言することへの不安を低減させる効果を生みました。また、スクールタクトのメリットである他者の意見を閲覧できる機能を用いたことで、児童が他の児童の意見へ関心を示すようになりました。このようなICT活用の効果を継続させようと考え、今回(2021年度)の研究・研修テーマを『対話的な学習の充実を図る』に定めました」(山口教諭)
同校では、2020年度に児童1人1台のChromebookの配備を終えており、2021年6月にはNTTコミュニケーションズを招いた「まなびポケット活用研修会」を実施しました。のちには、毎月1回のICT研修を通じて、各学年における「まなびポケット」の活用事例を校内に紹介してきました。
【2】スクールタクトでロボットの使い方やヒントを提示
同校におけるスクールタクトの代表的な活用事例は、上述したプログラミングの授業への適用です。
「プログラミング授業は、自作したプログラムでロボットを光らせたり走らせたりするというものです。自作したプログラムをロボットに転送して動作させることで、プログラムの完成度がその場で確認でき、何らかの問題があれば、すぐに修正して再度試してみることができます。この学習の主眼は、児童たちにプログラミングスキルを身に付けさせることではなく、失敗を恐れずに挑戦する強さや物事をより良くしたいという心を育むことです。スクールタクトはロボットの動かし方や注意点などを伝えるのに使っています」(山口教諭)
プログラミング授業では各クラスが共通の内容を実施します。進め方や教え方には経験に基づく本町小学校独自の統一スタイルがあり、着任したばかりの教員であっても(スクールタクトの使用も含めて)難なく授業が行えるといいます。その点について、2020年度に同校に着任し、6年生のクラスを受け持っている西内 牧子 主任教諭はこう話します。
「当校に着任するまでプログラミングの授業を行った経験はありませんでしたが、特に困ることなく授業が進められました。また、スクールタクトに注意点などを書いておくと、児童はコメントや映像を見てすぐにロボットを思いどおりに動かせるようになります。児童のICTの習熟の速さにはいつも驚かされます」(西内教諭)
Chromebookはプログラミング以外の授業での活用も進みつつあるようです。
例えば、Chromebookを使ったバーチャル社会科見学や音楽の授業での曲作り、算数での敷き詰めの学習、日々の調べ学習などの試みも展開されています。
写真説明:小学1年生、山口先生の算数の時間、スクールタクト使用
【3】オンライン学習や個別最適化された学びでも活用
本町小学校では、オンライン学習にも取り組んでいます。
「コロナ禍の影響による1週間の学年閉鎖の際、6年生の私のクラスでは児童にChromebookを自宅に持ち帰ってもらい、Web会議ツールの『Google Meet』とスクルールタクトを用いたオンライン授業を実施しました。この授業はGoogle Meetで互いの様子を確認しながら、共有したスクールタクトの画面を黒板代わりに使うというものです。オンライン授業で児童の集中力が続くのは2時間目までが限界でしたが、授業の形式自体は児童にも、保護者の方々にも好評で、ラジオ体操を含む朝の会と社会、算数などの授業を行いました」(西内教諭)
同校はまた、学びの個別最適化に向けた取り組みも進めています。
「例えば、算数の授業において単元のまとめの時間を設けて、児童がChromebookを使いながら、それぞれのペースで練習問題に取り組めるようにしました。この試みでは、児童は必要に応じて担任に確認しながら練習問題に臨みます。目指しているのは、各単元に対する児童各自の理解度に応じた支援を、ICTをうまく使いながら行うことで、誰一人取り残されることがないような、学習の振興です。その目的に沿って、児童の理解が不十分だと感じる部分についてはドリル教材の『eboard』を使って再度理解度を確認したり、意見共有の際は『コラボノートEX』で付箋に意見を書き込んだりして『まなびポケット」を有効活用しています」(山口教諭)
写真の説明:小学校6年生、西内先生のクラス授業、「SDGsへのアクションプランを考える」授業。コラボノートEXを使用。
【4】課題や悩みを解決し、実践を共有できるICT委員会を設置
山口教諭は、本町小学校におけるICT活用を巡る課題の1つとして、全校レベルでの「まなびポケット」の活用頻度がなかなか上がらないことを挙げます。
「当校の場合、ほとんどの先生が『まなびポケット』の使い方や、そこにどのようなコンテンツ(アプリケーション)があるかは分かっています。それでも十分に活用されていない理由は、おそらく、先生たちにとって『まなびポケット』(のコンテンツ群)がまだそれほど身近で便利なツールと感じられていないからだと考えます。その意味で、より多くの先生にまずは使ってもらい、便利さを実感してもらうことが重要だと考えています」(山口教諭)
ちなみに、本町小学校ではICT活用に取り組む先生たちをサポートし、トラブル解決も支援する組織としてICT委員会を位置付けています。委員会には次世代教育推進委員とICTリーダー/サポーター(1学年)の役割を担っている山口教諭のほか、各学年から先生が1人ずつICTサポーターとして参加しています。このICT委員会が中心となり、全教員を対象にしたICTの講習会などを催しているほか、同学年の教員同士による普段からの「教え合い」や「トラブル解決の支援」などをリードしています。
「ICT委員会があるおかげで、ICTで何かを始めてみたいと思ったときに誰に相談すべきかで迷う必要がなく、とても助かっています。言い換えれば、ICT活用に関する自分のアイデアをかたちにできる道筋が明確に示されているということです」(西内教諭)
今後、同校では校内における各学年・各教科、さらには他校における「まなびポケット」の活用事例を収集・共有しながら、その活用の幅を広げていくことを検討しています。
「当校の先生たちの実践を通じて『まなびポケット』が授業に有効に活用できるとの確信は得ています。これからは、より効率的な活用法を開発していきたいと考えており、それに向けて多くの先生たちの実践経験やアイデアを収集していくつもりです。そうした経験・アイデアをベースに実践を積み重ねていくことで、より良い活用法が必ず見出せるはずです。当校全体のICT活用が一層進展し、さらに充実した学びが実現されることを目指しています」(山口教諭)