2022.01.12

研究レポート①-7:小金井市小金井第一小学校

 東京都小金井市ではGIGAスクール構想の実現に向け、2020年から市内公立小・中学校に「Chromebook™」を配備し、「児童・生徒1人1台端末」の環境を実現しています。それに伴い、NTTコミュニケーションズが提供する教育ICT環境「まなびポケット」を使ったGIGAスクール構想の実証をスタートさせました。ここでは、本実証のレポートとして、市内各校の取り組みを紹介していきます。

小金井市立小金井第一小学校
学級担任(3年)
次世代教育推進委員
安藤明日香 教諭

小金井市立小金井第一小学校
学級担任(2年)
学年主任
中堀美佳 主任教諭

【1】研究・研修テーマについて

~1人1台のChromebookで児童の日常的なICT活用を推進~

 小金井第一小学校(以下、第一小学校)は、低学年の1〜2学年がそれぞれ4クラス、中学年以上(3〜6学年)が3クラス、 特別支援学級も含め、全23学級で、2021年度の新学期を迎えました。小金井市内の他の公立小学校と同様に同校でも2020年からICT端末(Chromebook)の配備が進められ、2021年度の新学期が始まる4月の段階では、児童1人1台のICT端末(Chromebook)の配備されました。

 同校が、GIGAスクール構想における研究・研修のテーマとして掲げている事柄は大きく2つあります。1つは、全校児童が1日1回以上、Chromebookや「まなびポケット」、あるいはデジタル教科書などのICTを使うことです。このテーマ設定によって目指したゴールについて、同校の次世代教育推進委員で3学年の学級担任でもある安藤明日香 教諭は次のように説明します。

 「当校が目指したのは、ICT機器を難なく使いこなしながら、学年ごとの課題に取り組む児童の姿です。背景には、児童へのICT機器の操作説明に多くの時間を割くことなく、授業における問題解決の一手としてICTを活用していきたいという思いがあります」

 また、2つ目の研究・研修テーマは、同校における校内研究教科である社会科と生活科を中心に各教科でのChromebookの活用を推進し、児童同士の話し合いや意見交換などを充実させることです。このテーマの背景には「社会とつながり、未来を創る子どもを育成する」という大目標があり、その達成に向けて、児童同士の自発的・能動的な話し合いや意見交換、あるいは協働学習をICTの活用を通じて充実させ、社会の課題を解決する能力を養うといったねらいがあります。

【2】Chromebookの日常的な活用に取り組む

 上述した研究・研修テーマのもと、第一小学校では次世代教育推進委員の安藤教諭のほか、1名のICTリーダーと各学年に1名ずつのICTサポーターが、同校のICT活用をリードしています。この体制の中で、安藤教諭やICTリーダー/サポーターが担任を務めるクラスを中心に、児童によるChromebookの日常的な活用が進んでいます。中でも中学年以上のクラスでは、授業時間での活用のみならず、朝の登校時や休み時間、委員会活動など、様々な場面でChromebookが使われているといいます。

 例えば、安藤教諭のクラス(3学年)では、児童の学校での1日がChromebookを教室の保管庫から取り出して起動し、デジタルの予定表を確認して連絡帳を書くことから始まります。またそれだけではなく、1時間目が始まるまでの少しの時間を活用し、児童たちは「まなびポケット」のチャンネル機能を使い、「最近あった、ちょっとした幸せな出来事」を“プチハッピー”として書き込んでクラスの全員と共有しています(参考画面)。

参考画面:安藤 教諭のクラスで行われている「プチハッピー」の展開イメージ

 「従来は連絡帳に“プチハッピー”を書き込んでいましたが、その内容を確認できるのは先生だけで、クラスの全員で共有することはできませんでした。そこで、児童たちに自分のちょっとした幸せをみんなで共有する楽しさを感じてもらおうと、まなびポケットのチャット機能を使うことにしました。結果として、児童たちは喜んで自分の“プチハッピー”を報告してくれています」

 同校では2020年からChromebookの全校的な使用を始めており、現在の2年生から6年生までの児童はほぼ全員がChromebookの基本的な使い方を習得しています。また、3年生の2学期まではローマ字を学びませんが、ローマ字を知らない児童もChromebookの手書き入力機能を使うことでチャットでの簡単な対話が行えます。

 また、安藤教諭のクラスでは、授業内の協働学習でもスクールタクトやコラボノートEXをよく使用しているといいます。

 「児童の意見を共有するときにはスクールタクトを使い、グループに分かれてそれぞれの意見を1つにまとめ上げたり、分類したりする際にはコラボノートEXを使っています。もちろん、手書きで文字入力ができるとはいえ、“プチハッピー”とは異なり、3年生が自分の意見をChromebookに入力するのには相応の時間がかかります。加えて言えば、3年生の段階では紙のノートに自分の意見を書き込むことも頭を働かす上では大切だと考えます。ですので、私の授業では、子どもたちに紙のノートに自分の意見を書かせた上で、それをChromebookで撮影させ、スクールタクトやコラボノートEXで共有するというスタイルをとっています。」(安藤 教諭)

 安藤教諭によれば、こうしたスタイルでも、クラス全員の意見を速やかに、かつ一挙に閲覧することが可能になり、教員や児童が新たな気付きを得られる機会が広がるといいます。また、意見をまとめるのが苦手な児童でも、友達の意見を参考にしながら自分なりの考えを生み出せるといった効果もあるようです。

 このほか、安藤教諭のクラスでは、授業の振り返りや、モジュールの時間を使って自習用にドリル教材の「おさらい先生」や「みんなの学習クラブ」なども活用しています。

【3】“筆記”を基本としながらICTで授業を効率化

 一方、低学年(1、2学年)については全児童分のChromebookは用意されているものの、(2021年11月時点では)保管庫が全クラス(8クラス)分確保されていません。そのため、各クラスの教室には保管庫が配備されていません。1学年、あるいは2学年の全クラスが一斉にChromebookを使用したり、朝の登校時に充電済みのChromebookを保管庫から任意に取り出して活用したりするのは難しい状況にあります。ただし、それでも授業にChromebookやスクールタクト、ドリル教材を積極的に活用している担任教諭は少なくありません。その1人が2学年の学級担任で学年主任でもある中堀美佳主任教諭です。同主任教諭は、算数などの授業で常にスクールタクトを用いているといいます。
 「安藤教諭が言うように、自分の手でノートや紙に筆記することは、中学年までの児童にとって大切な学びであり、低学年では特に重要だと考えます。ただし、だからといって低学年の授業でICTを使うメリットがないかと言えば、決してそうではありません。」と、中堀主任教諭は指摘し、こう続けます。

 「例えば、板書をChromebookで撮影し、スクールタクトで整理した上で教室の大型テレビで映せば、板書を使った前回授業の振り返りが簡単に行えます。同様に、クラスの全員に提示したい手書きのノートや教科書のページがあるときには、それらをChromebookで撮影し、スクールタクトを介して大型テレビに表示させます。そうすることで、児童に注目してほしい部分を拡大して見せたり、丸で囲ったりしながら授業が効率的に進められます。しかも、授業のたびに大判の用紙を使った資料を用意する必要もなくなります。そうしたメリットがあるゆえに、私は算数の授業などでほぼ毎回スクールタクトを活用しています」(中堀主任 教諭)

中堀 教諭の算数の授業風景

 中堀主任教諭のクラスでは、他にも休み時間を利用して「まなびポケット」の「ピクチャーキッズ」を使い、クラス内の新聞や係活動用のポスターを児童が作成したり、安藤 教諭と同様に「まなびポケット」のドリル教材を活用したりしています。ただし、ドリル教材を使った学習においても、あくまでも紙にものを書かせることを基本にしています。

 「私は、ドリル教材の『eboard』などを使用していますが、クラス全員に取り組ませなければならない課題については、従来どおり紙のドリルやプリントを使っています。デジタルのドリル教材は児童の学習進度の違いに対応するためのツールとして活用しており、授業の中で紙のドリルを終え、より先に進みたい児童に『eboard』などを自由に使わせています。」(中堀主任 教諭)

 このほか、第一小学校では新型コロナウイルス感染症対策での休校期間中、家庭のPCが使用できない児童に対してChromebookの持ち帰りを許可しました。その際にも、紙のプリントと併用するかたちでスクールタクトに課題を入れて児童に配布したといいます。

【4】広がるスクールタクト、コラボノートEX活用の裾野

 第一小学校の場合、先に触れたようにICT活用の推進体制は組まれていますが、ICTをクラスでどう使うかは各担任教諭の判断・裁量に委ねられています。そのため、クラスによってChromebookの活用率には多少のバラツキがあるようです。

 ただし、Chromebookやスクールタクト、コラボノートEXを活用する教員は着実に増えており、とりわけ、2021年の夏に行った2回の校内研修をきっかけに、スクールタクトとコラボノートEXを使う教員がかなり増えたようです。

 「この校内研修では、学ぶ内容を、教員へのアンケートで“使ってみたい”という要望が最も多かったスクールタクトと、ICTリーダー/ICTサポーターが協働学習に有用と判断したコラボノートEXの2つに絞り込みました。研修では教員用と児童用のChromebookを使い、先生役と児童役の教員がそれぞれの画面を確認しながら、例えば、スクールタクトであれば、テンプレートを使った課題の作り方と使い方を学んでいくという方式を採用しました」(安藤 教諭)

 このような方式を採用した理由は、教員用の画面と児童用の画面とでは、コンテンツの操作画面の設計が異なるためです。そこで、より実践に近いかたちで、スクールタクトやコラボノートEXの使い方が学べるようにしたのです。教員用と児童用のChromebookを活用したというわけです。

 「結果として、この研修を境に多くの先生がスクールタクトとコラボノートEXを授業で使い始めてくれています」(安藤 教諭)

【5】ICT活用のさらなる深化に向けて

 第一小学校では、今後も研修や教員同士の情報共有を通じて、校内全体のICT活用率を一層高めていく予定です。

 「教員は日々忙しいので、ICTの研修をそう頻繁には行えませんが、同学年を受け持っている教員同士は、授業でのICT活用のアイデアや体験を日常的にシェアしています。これからは、こうした情報共有の輪を、学年を跨いだかたちで広げていきたいと思います。加えて、学期終わりには、その学期におけるICT活用の取り組み全体の振り返りを行い、うまくいったこと、いかなかったことを洗い出して共有し、次学期の取り組みにつなげていく考えです。」(安藤 教諭)

 また、校内での情報の共有のみならず、他校の取り組みについて知る機会も、より有効に活用していきたいと安藤 教諭は言います。

 「例えば、『BANSHOT』のサービスなど、他校の先生と授業記録を共有し、互いの参考にできる場が既にあります。今後はそうした場をより有効に活用していこうと考えています。それに向けて、サービス提供側にも、目的の情報がすぐに探せるナビゲーション機能や通知機能を一層充実していただければ嬉しいかぎりです。」(安藤 教諭)

 こうした安藤 教諭の言葉を踏まえつつ、中堀主任教諭は同校におけるICT活用の今後について、次のような見解を示し、話を締めくくります。

 「小学校でのICT活用で大切なことは、学習の目標を明確に定めた上で、どのようにICTを使うのが効果的かを見定めていくことだと思います。そして、最終学年の6年生の児童たちに、どのようなスキル、能力、リテラシーを身に付けさせたいのか、そのために各学年で目指すべきこととは何かを、全学年の教員の間でしっかりと取り決め、実現に向けて努力を続けることが重要だと感じています。」