2021.11.17

研究レポート①-4:小金井市立小金井第一中学校

 東京都小金井市ではGIGAスクール構想の実現に向け、2020年から市内公立小・中学校に「Chromebook™」を配備し、「児童・生徒1人1台端末」の環境を実現しています。それに伴い、NTTコミュニケーションズが提供する教育ICT環境「まなびポケット」を使ったGIGAスクール構想の実証をスタートさせました。ここでは、本実証のレポートとして、市内各校の取り組みを紹介していきます。

小金井市立小金井第一中学校
技術科 ICT担当代表
斉藤与志朗 主幹教諭

小金井市立小金井第一中学校
社会科 自閉症・情緒障害特別支援学級担任
仙澤龍祐 主任教諭

小金井市立小金井第一中学校
理科 生徒会担当 生活指導主任
中村吉宏 教諭

【1】研究・研修テーマについて

〜 ICT環境を最大限に活かした授業を展開:総合や特別支援学級、生徒会活動から利用をスタート 〜

 小金井第一中学校は1学年4〜5クラス編成で、2021年4月から生徒1人1台にICT端末(Chromebook)を配布しています。その時点で掲げたGIGAスクール構想の研究・研修テーマは「現状の(ICT)環境を最大限に活用した授業」を展開しながら「生徒1人1人の学習に対する関心・意欲を高める指導方法の模索」と「各教科で『まなびポケット』などを活用し、授業改善を図る」といった事柄です。

 このテーマのもと、2021年10月時点では総合学習や特別支援学級での授業、生徒会活動を中心にChromebookを活用していますが、年度初めの4月時点では教員全員のICT端末を確保できていませんでした。

 そのため、各教科の授業で利用するのではなく、特別支援学級での授業や生徒会活動など、限られた範囲での利用からGIGAスクール構想の取り組みをスタートさせました。当時の状況を同校でICT担当代表を務める斉藤与志朗主幹教諭は次のように振り返ります。

 「1学年の教員数はおよそ8名ですが、当初は4名分程度の端末しか確保できませんでした。2021年度の1年生が5クラスになり、教員用の端末を1年生に割り当てたためです。先生同士でChromebookを都度貸し借りするわけにもいかず、授業での利用は9月ごろになってようやく始まりました。ただ、特別支援学級や生徒会活動で先行して活用を進めていたことで、混乱なくスムーズにスタートできたと感じています」

  例えば、2学年の総合学習では、コロナ禍で移動教室が中心になったことを受け、全国6都市を対象にした2泊3日の仮想的な旅行計画を立て、Chromebookで各地の地理や歴史、観光名所などを調べて「まなびポケット」の「コラボノートEX」で情報誌を作成し、各自がプレゼンテーションしました。

 「現在は、コラボノートEXとスクールタクトを中心に利用しています。それぞれのツールの有効な活用方法は、特別支援学級での授業や生徒会活動での先行利用でノウハウを蓄積してきました。また、国語と英語についてはデジタル教科書を利用しており、Chromebookでも利用できるようにしています」(斉藤教諭)

【2】「暗記」ではなく「理解」を重視した学習にICTがマッチ

 同校における特別支援学級の1つ自閉症・情緒障害特別支援学級では社会科の授業でコラボノートEXを活用しています。同学級の担任である仙澤龍祐主任教諭は単なる知識の詰め込みにとらわれない、独自の授業スタイルをICTによって確立しています。

 「社会科というと、板書した内容をノートにとり暗記するスタイルをイメージするかもしれませんが、基本的に私は板書をせず、生徒もノートをとりません。コラボノートEXで作成したスライドにChromebookで書き込んでもらい、教員と生徒がやりとりしながら、内容を理解していく授業を進めています。知識の詰め込みより理解してもらうことを重視しており、そうした授業のスタイルにICTはとてもマッチしています」(仙澤教諭)

 例えば、江戸時代の身分制度を学ぶときに、これまでは教員が生徒に課題を出し、生徒が武士や農民、町人などの階級を調べてノートにまとめて提出するという流れが一般的でした。ただし、Chromebookを導入してからは、基本的に生徒の自主性に任せているといいます。具体的には「教科書の○ページを見て、江戸時代の身分制度をまとめましょう」というコラボノートEXのスライドを提示し、生徒はそこに自分で調べたことを直接入力する方法を自ら考案しました。

 「生徒は文字を入力するだけでなく、画像やイラストを貼って自分なりにまとめています。教科書にない画像を探してきたり、漫画の切り抜きを使ったりしてわかりやすく表現する生徒もいます。『町人は城下町に住み、町奉行にコントロールされていた』というテキストの内容については、操り人形のようなイラストを使って表現した例もありました。自分なりに授業内容を表現することで理解が深まり、主体的な学びを実践できると考えています」(仙澤教諭)

【3】Web会議ツールや映像制作ツールを自発的に活用する生徒会

 生徒会活動では、主にスクールタクトの投票機能や連絡帳を活用して、生徒同士の情報共有やアンケートなどを実施しています。また、コラボノートEXの思考ツールを使って議案書を作成したり、ICTツールのノートを使って議事録や活動記録を作成したりする例もありました。生徒会担当の中村吉宏教諭は、当時のことを以下のように振り返ります。

 「コロナ禍での分散登校の際に、個人的にスクールタクトを連絡帳として使い始めました。当初は私から生徒に向けて情報を発信するだけだったのですが、親しみやすい文章で発信することを心がけているうちに、生徒のほうから生徒会活動に利用したいという声が挙がるようになりました」

 取り組みを続けていくうちに、生徒会所属の生徒から「Web会議ツールと『コラボノートEX』を組み合わせれば、密を防ぎながら生徒総会を実施できる」という意見が出て、実際に生徒総会を開催できたといいます。

 「離れた教室に数人ずつ集まり、Web会議で生徒総会を進行させながら、コラボノートEX上で意見を出して、議案書を作成しました。いまではWeb会議ツールのほかにも、『AIAIモンキー』でどんな意見があるかを確認するなど、さまざまなツールを使いこなすようになっています」(中村教諭)

 さらに、生徒会では「まなびポケット」では提供していない映像作成ツールを活用して、新入生向けの学校案内や生徒会の取り組みをPRする映像制作なども行っています。制作した映像は、校舎の玄関や廊下などに設置されたモニターに表示され、生徒が日々目にしています。

 生徒会の生徒たちが積極的にChromebookを活用している姿は、教員たちの刺激となり、ICTを使ってみようという機運が高まるきっかけとなりました。

【4】ICT端末を使いにくい教科でも、まずは使ってみることが重要

 Chromebookの数に限りがあったことで「まなびポケット」導入時は、教員向けの統一した研修プログラムを実施する機会はほとんどありませんでした。斉藤教諭は、先行してChromebookを使い始めた教員が主体となって動くことで活用が広がったと話します。

 「基本的にChromebookをどう活用するかは各学校に任されています。そのため、最初に使い始めた先生たちが中心となって、どのアプリが使えるのかノウハウを蓄積し、それを少しずつ共有していきました。コラボノートEXについては仙澤先生が、スクールタクトについては中村先生がそれぞれご自身で学び、他の先生に勧めることで活用が広がっていきました」(斉藤教諭)

 各教科の授業についても、仙澤教諭の社会科での協働学習の事例を共有しつつ、ほかの教科での利用方法を探っている段階だといいます。

 こうした取り組みの意義について、中村教諭は次のように説明します。

 「数学や理科など、最終的な答えが1つしかない教科ではICTを使った協働学習を取り入れることはなかなか難しいですし、ICTを無理に授業で使おうとすると非効率になることもあります。ただし、実際に使ってみなければICTの適切な活用法は見えてきませんし、新たな気づきも得られません。これからも先生方を巻き込みながら、取り組みを進めていこうと考えています」

【5】多少の無理をしてでも有効活用の方法を探っていく

 授業でのICTの活用はまだ始まったばかりですが、教員が授業中にChromebookを使用して画像などを提示したり、紙のプリントとして配布していたものをデジタル化して生徒に見せたりするといった使い方はすでに浸透しているといいます。一方で、授業でのICT活用をさらに押し広げていくうえでは課題も多くあるようです。

 「先生たちはすでに授業のスタイルを確立していて、授業で使うプリントづくりにも苦労を感じていません。そのため、ICTを使うことにそれほどの必要性やメリットを見出せず、それがICT活用の広がりを鈍らせる要因になっています。例えば、当校では『まなびポケット』のドリル教材がほとんど使われていませんが、理由は、先生たちが現在使用している市販プリント教材に不便を感じていないためです」(斉藤教諭)

 この言葉を受けたかたちで、中村教諭もこう指摘します。

 「『まなびポケット』は軽快に動く環境であり、生徒たちは難なく使いこなせます。とはいえ、生徒と教員の双方にメリットがなければ利用は進みません。今後は、市内各校の様子などをよりこまめに伝達しながら、『まなびポケット』やChromebookを使うメリットと可能性を、より多くの先生に知ってもらう必要があると感じています」

 さらに、仙澤教諭は、多少の無理をしてでもICT活用の取り組みを進めることが大事だといいます。

 「授業でのICT活用が有効かどうは実際に使ってみなければわかりません。GIGAスクール構想の実証を通じて、最終的に中学校の授業にはICTは必要なかったという結論が出るかもしれませんが、使ってみなければそれも分からないわけです。その意味でも、GIGAスクール構想の取り組みは多少の無理をしてでも前に進めることが大切で、そうしたいと考えています」