2021.10.05
研究レポート①-1:小金井市立南小学校
東京都小金井市ではGIGAスクール構想の実現に向け、2020年から市内公立小・中学校に「Chromebook™」を配備し、「児童・生徒1人1台端末」の環境を実現しています。それに伴い、NTTコミュニケーションズが提供する教育ICT環境「まなびポケット」を使ったGIGAスクール構想の実証をスタートさせました。ここでは、本実証のレポートとして、市内各校の取り組みを紹介していきます。
小金井市立南小学校 5年2組担任
体育行事主任
草野志温 教諭
小金井市立南小学校 図画工作科
次世代教育推進委員 ICTリーダー(日常活用推進)
高橋雅子 教諭
【1】研究・研修テーマについて
〜 「読むこと」の技能を身に付けて活用する学習の研究 〜
南小学校では2020年度から校内研究の主題として、国語における「読むこと」の技能に着目した研究を進めています。2020年度では研究の手始めとして先生たちのスキルアップを徹底して図り、2021年度からは学習の過程や成果・課題にフォーカスを当てながら、研究内容をより充実させる取り組みを推進しています。
この校内研究はGIGAスクール構想の実現とはまた別の研究です。ただし、2021年度におけるGIGAスクール構想の研究・研修の主題も、校内研究と同じテーマに設定されています。理由は、校内研究とGIGAスクールの研究・研修の主題を同一にすることで、研究がより効果的に進めていけると考えたためです。
【2】1学期をGIGAスクール構想の立ち上げ期間と位置づける
小金井市内の他の小学校と同様に、南小学校で児童1人1台の「Chromebook」の配備が完了したのは2020年度3学期のことです。その意味で、同校におけるGIGAスクール構想が本格的に動き始めたのは2021年度1学期からとなります。
その始動に際して、南小学校のICTリーダー(日常活用推進)の高橋雅子教諭は2021年度1学期を、GIGAスクール構想の実現に向けたスタートアップ期間として位置づけ、教員・児童のICTスキル、リテラシーの共通理解を図りました。
「GIGAスクールを進める上での課題は、ICTの環境整備が先行して行われ、教員・児童への共通理解が遅れてしまうことです。ICTへの理解が不十分なまま、それを使うことになっても、多くの教員・児童はついていけませんし、保護者も戸惑います。そのため1学期中は、教員・児童・保護者のICTスキル/リテラシーの共通理解を図り、みんなが同じルールと意識のもとで活動できるようにする取り組みに力を注ぎました。」(高橋教諭)。
【3】子供たちのICT活用スキルの育成
上述した方針の下、子供たちへの最初の教育として南小学校が実践したのは「まなびポケット」へのログイン演習です。「まなびポケット」で各学年のクラス設定を行ったうえで、全校児童が手元のChromebookからログインして「まなびポケット」によるコミュニケーションが行える状態にもっていくまでの演習が行われました。
「この演習は、コロナ禍などによっていつ学校が休校になっても、全校児童が自宅から『まなびポケット』にアクセスできるようにするためのものです。」と、高橋教諭は振り返ります。
また、中学年以上の児童については「まなびポケット」へのログインだけではなく「まなびポケット」のデジタル教材の1つ「スクールタクト」の使い方を覚えることを必須とし、課題の受け取り方や投稿・提出の方法、資料作成の方法などを学びました。
「子供たちはICT環境の使い方を習得するスピードが早く、特に中学年・高学年の子供たちはスクールタクトの活用法をすぐに覚え、授業で問題なく使えるレベルに達したと言えます。」と、5年生の担任で授業でのICT活用に先駆的に取り組んでいる草野志温教諭は話します。
【4】教員に対するICT研修と見えてきた課題
2021年度の1学期では教員に対しても、具体的な操作方法や使用方法の研修が毎月行われ、6月には草野教諭主導で独自の「スクールタクト検定」も行われています(表1)。
表1 スクールタクト検定
9級 | 「授業」が制作できる。 |
8級 | 単元名を入れられる。 |
7級 | 新規課題(テンプレート)を作成できる。 |
6級 | 新規課題(白紙)を作成できる。 |
5級 | 児童を参加させる。 |
4級 | モードを切り替えられる。 |
3級 | 提出、提出を取り消せる。 |
2級 | ルーブリックを作成する。 |
1級 | ワードクラウドや発言マップが使える。 |
この検定の効果もあり、教員たちの間でスクールタクトの使用が活発化し、授業での活用も進んだといいます。
「先生たちはICTを授業に活かしたいと考えていますし、ICTの研修にも積極的に参加しています。ただし、ツールとしてのICTの使い方を習得したとしても、授業での有効活用が自動的に図れるようになるわけではなく、それには相応の試行錯誤が必要です。その意味でも、ICTを使った学びが全校に浸透するまでには一定の時間とさらなる研究が必要だと見ています。」(草野教諭)
【5】児童によるICT端末の「持ち帰り」の推進
2021年度の夏休みにおいて、南小学校では3年生以上の児童を対象に Chromebookの自宅への持ち帰りを実践しました。持ち帰りの方式は、自宅学習用にChromebookの貸し出しを希望する児童に対して、保護者による署名付きの申込書を提出してもらい、そのうえで持ち帰らせるという「任意方式」です。結果として3年生以上の児童の多くが持ち帰りを希望し、また、持ち帰りを希望しない児童の中には自宅にPCがあり、Chromebookを使わずともまなびポケットの環境が利用できる家庭が含まれていたようです。
南小学校では当初、3年生以上の児童全員にChromebookを持ち帰らせ、夏休み中の課題に使用させることを検討していました。それに向けて夏休み前の土日を使って3年生以上の全児童に任意の持ち帰りを実施させ、保護者へのアンケート等を行いました。
「その結果、保護者の方々からは、子供たちの健康に関することやハードウェア面での心配等、多くの意見をいただきました。保護者の方々だけでなく、本校としても全児童が宿題を行うには、さまざまな課題が残るため、今回の夏休みについては任意での持ち帰りとなりました。」(高橋教諭)
【6】今後に向けた展望と期待
前述したとおり、南小学校では2021年度の1学期を児童・教員のICTスキル、リテラシーの足並みをそろえる期間──言い換えれば、児童・教員がICT環境に慣れるための期間としました。2学期は授業でのICT活用をさまざまにチャレンジする“試行錯誤”の期間として定め、3学期は子供たちが学校でのICTの活用法を自ら提案・実践する期間として設定しています。
もっとも、高学年の子供たちは1学期の段階でICT活用のスキルをかなり高めており、学級活動での能動的な使用も始めているようです。
「5年生の学級活動の一環として、お楽しみ会を企画したのですが、その司会者がクラスの全員にChromebookを当たり前のように使わせていました。学校行事でのICT活用は、少なくとも高学年の子供たちにとっては、特別なことではなくなっているようです。」(草野教諭)
一方、授業でのICT活用の進展によって教員の働き方改革が進むことへの期待も大きいと、草野教諭は指摘しています。
「Chromebookの導入で、子供たちの提出物に対する評価やフィードバックを場所や時間を選ばずに行えるようになったことは、教員の働き方改革にかなり有効であると感じています。実際、私自身がChromebookの導入以降、仕事と子育てを両立しやすくなり、助かっています。そうしたICT活用のメリットを、より多くの先生たちに享受してもらいたいと願っています。」(草野教諭)